Tanti Anni Prima

雑食なエンジニアの本棚

伊豆の走り子

いくら関西に住んでいて関東へのフットワークが重くなっていようと、友人から「伊豆大島に繰り出さないか」という魅力的な提案をされようものなら鼻息を荒くして参戦することはやぶさかではない。

「存在は知っているが何かきっかけがないと行かない」ランキングにおいて国内上位に君臨すると自分の中で話題の伊豆大島は、(行った人ならば分かると思うが)島へのアクセスのしんどさを軽く凌ぐほどの充実感を与えてくれる素晴らしい場所である。
安直かもしれないが、島を訪れるならば5月の気候は最高の環境であろう。

そんな大島に目をギラつかせて突っ込んで行ったのはGW真っ只中である。

竹芝客船ターミナル~大島入口

筋金入りで折り紙付きの田舎者である自分にとってはただの羽田空港への乗り換え地としか認識していなかった浜松町は、実は水・空両用であったことに初めて気付く。
港がこんなに近かったのか、と浜松町のポテンシャルには甚だ恐れ入るものだ。
かなり朝早いというのに、港にはハンター試験に来ているんじゃないかと思うほど筋骨隆々の猛者達がチャリを抱えて出港を待っていた。

ちなみにいい天気である。
笑っちゃうほどいい天気である。

青い空、白い雲_____。そのコントラストを吹き飛ばすほど主張の強い真っピンクのジェット船に身を任せて大島への旅はスタートする。

行きはジェット船、帰りはフェリーというチケットを手に入れ、なんか「落差凄いんじゃないか...」と思えたがこのジェット船は意外と、というかかなり快適な乗り物である。
バスも船もいつもは酔い止めがあまり機能しないし、必ずリバース用の袋を携えて行くほどの貧弱さを誇る自分が何も不具合を起こさないくらいの優秀さであった。

「伊豆って静岡の地名だけど、伊豆諸島はたしか静岡ではなかったよな。なんでだっけ?」という令和史上最大級にヘボい疑問に苛まれている(ゴリゴリの圏外で調べられない)うちにジェット船は大島の玄関にたどり着く。
天気がいいのは変わらないが、加えていい感じに風が強い。
何故かそれが理由で「島」に来たんだなという実感がより湧いてくる。
そして道路を走っている車は品川ナンバーである。
そういえばしっかり東京都である。

自転車で波浮を目指して

ジェット船で入り口にはたどり着いたものの、自転車のレンタルができるのはもう少し公共機関を乗り継ぐ必要がある。
そう言うとしんどそうに聞こえるが、島のコンパクトさと利便性を一番実感するのは、こういう公共機関を使った時であろう。

「大島が東京都ということは、例えばカバディの都大会があったとしたら、大島のプレイヤー達は一度本土に繰り出す必要があるのか。大変だろうな。」と思いを巡らせていると、ものの15分で元町港にたどり着く。
こちらの元町港も素晴らしいオーシャンビューである。

フェリーを含めた帰路の時間を考えると実は4時間くらいでこちらに戻って来なければならないではないか、と仲間と戦々恐々としていたのだが、南の丁度いい位置に寿司屋があると気付き、何を思ったか自転車で自らRTAを課すことになる。
(後々たどり着いて気付くが、寿司は予約制かつ満席であった。)

事前情報が薄いまま参戦したため、レンタルサイクルはなんとなくロードバイクとかクロスバイクなんだろうな...と楽観的な想像をしていた。
だが予想に反し、そこで貸し出されたのはゴリゴリのマウンテンバイクである。
このマウンテンバイクが凄いのである。
自転車という文明の利器は力を加えると水平方向に動くものだと元来認識していたのだが、この自転車はなんと漕げばやや上に弾む。
ギア4だろうか、と思えるほどのバウンドっぷりであるこの自転車を手にしてスタートするわけだが、目的地までの道のりは実に自分との戦いを強いられることになる。

ロードバイクを手に入れて自分のようにビワイチやアワイチを経験した方ならば、「もしかして私は霊長類最強なんじゃないか」という俺TUEEE状態にあるかも知れない。
だがそのうち半分くらいの人には、慢心すること勿れ、と注意を喚起しておきたい。
それはたぶん、只々自転車が凄いのだ。
ポケ○ンやモン○ンと同じように、装備は強くなっているが、自身のスペックが変わっているわけではないのと同義である。
その認識を怠ると自分のように、実は弘法などではなかったという厳しい現実を再認識させられることになるぞ、と人柱からあらかじめ忠告させて頂きたい。
残りの半分は自分が目指しているような、仕事も、恋愛も、環境問題も筋肉で解決できると思っていそうな愛すべき脳筋達だろうから注意不要であろう。

暑さも手伝って視界が徐々に虹色になるのを覚えながら、終わりがないと思える傾斜を登り詰めると、下り坂に差し掛かった直後に大島名物の地層切断面がぬっと現れる。

普通ならば見逃すかもしれない地層も対面に広大な海を構えているとその凄まじさは倍増するのだ。バウムクーヘンよろしく美味しそうに彩られたその地層は、かつて動き出さんばかりの牛久大仏の立像を拝んだ時と同じような衝撃的な迫力である。
自分はマニアではないため元来地層には興味を示さないで生きてきたが、今ならばその道の方といい酒が飲めるかもしれない、と思った貴重な瞬間である。こいつがセレンディピティというやつか(←)。

舌鼓の大島名物

ここからは楽しくて叫びたくなるほどの下り坂エンペラータイムが続くことになるのだが、その坂が終わりを迎えると、やがて番犬の代わりにゴジラを飼っているラーメン屋に辿り着くことになる。(ちなみにゴジラは誇張ではない)
大島の名物は島海苔ということをリサーチしてはいたものの、「果たしてどこに使い道があるのだろうか」と考えていたのだが、その最適解と宇宙の真理はこの店にあった。
海塩と貝出汁を織り交ぜつつ、傍若無人にどかっと鎮座する大量の貴重な島海苔。
しつこくないさっぱりとした味付け。
こんなもの、美味しくないわけないだろう?

爆走して極限の空腹状態にあったところに旨味の右ストレートをくらいつづけ、我々はノックアウト寸前まで追い込まれることになる。
「あぁ、これで今日一日は終わったんだ...」と半ば自分に言い聞かせたほどである。

さて、帰りはどうしたかと?
当然来た道をまた引き返すため死屍累々の地獄絵図が完成したことは言うまでもない。
それでも唯一無二の風景を堪能させてくれ、コロナ禍でバキバキに凝り固まった体を多少解放させてくれた大島には感謝しかない。


ただ、次回はリニアモーターカーと張り合うほどスピードの出る我が愛車(ロード)を携えて、島をほんの137周くらいしてやろうと思った次第である。


それでは。

(追伸:その日の夜に横浜家系をドカ食いしました。)