Tanti Anni Prima

雑食なエンジニアの本棚

【蔵書No. 35】マインドマップでよいという提案 | マインドマップ読書術

 Chatworkが2022年に出した調査結果によれば、ビジネスメールで多用される「お世話になっております」という書き出し、あれに1日で最大81億円もの給与が割かれてしまっているらしい。確かにベタな挨拶は脳死で使える便利な書き出しの言葉ではある。ところがこうして損失の金額として見ると、次回からはなんとかして使わずにいようというマインドになる。だがビジネスマンから言わせてもらうと、そんなベタな挨拶の損失よりもパワポの作成に割く時間の損失の方が大きいんじゃないかと思っている。損失も大きいし、その工数は当事者にとってもつらい。本書を手に取ったきっかけは、単にマインドマップと読書の掛け算が面白そうという理由が半分であった。だがもう半分の理由は、自分の中でのマインドマップの実用性について説得力をより持たせたかったからである。今日では「パワポエンジニア」なんて残念な言葉が飛び交っているが、世の中のパワポ案件の半分くらいはよりお手軽なマインドマップで完結すると思っている。本書を読めば、一見扱いが難しそうなマインドマップを有効に使うためのきっかけを掴めるかもしれない。

読んだ本

・タイトル:マインドマップ読書術
・著者:トニー・ブザン

感想云々

 本書のマインドマップの使い方を見ると、いかに読書とマインドマップの相性が良いかが分かる。そもそも本書におけるマインドマップの位置づけというのは、読書をする際により多くの内容を把握できるよう、インプット効率の向上のためのツールである。最近では一冊の本を一度だけ丁寧に読むよりも、段階を経て複数回読み返す方が効果的ということが分かっている。最初は粗く全体を把握して、徐々に各パートの情報を掘り下げていって細部の内容を把握していくのだ。それをやろうとした時、マインドマップはガイドとして抜群の威力を発揮する。マインドマップのツリー構造自体がそのまま「概略→細部」という流れになっているからだ。

自分は一度その本を読んだら、次の本にすぐ移ってしまうたちである。同じ内容を反芻するよりも、ひとつでも新しい知識を手に入れたいと思っているからだ。ところが後で振り返ってみると、その本の内容で覚えているのはせいぜい数%程度の情報であることが多い(10%も覚えていれば御の字である)。正直、その本の中でたったの一文でも心に残るメッセージがあればその本を読んだ価値があると思っている。だが、どうせ読むならば吸収できる情報は多い方がいい。そのため、本書のようなマインドマップを使った読書方法は個人的に非常に有効に思えた。

また、読書においてマインドマップを作成するというのは、絵画でいうデッサンに近いと感じている。絵を描こうとした時に、いきなり片っ端から丁寧に描き始める人はそういないだろう。全体を概略で描いて、徐々に細部へと展開していくのが普通の書き方だと思うのだ。読書においても同じことが言える。何もインプットがない状態から丁寧に読むのではなく、マインドマップによる概略のガイドがあった方が理解も読むスピードも早くなると思うのだ。そう思って従来の自分の読書を振り返ってみると、何も気にすることなく片っ端から地道に文字を追っていくのが常であった。一見普通の読書のようだが、マインドマップの知識を得た後では、ゴールの見えない非効率的なことをしていたのだなと実感する。

 本書はマインドマップによる「インプット」にフォーカスしているが、マインドマップのいいところはインプットだけに留まらない。むしろ、アウトプットにおいて効果を発揮すると思うのだ。一般的な企業(うちの会社もそうだが)では、他者にアウトプットするとなると、大体がパワーポイント(以下、「パワポ」)であるだろう。自分はこの風潮にやはり疑問を抱いてしまうのだ。これが社外へのプレゼンならばまだいい。社外へのアウトプットならば、練り上げたストーリーとバチバチに洗練されたデザインを駆使したスライドを用意して、聴衆の心をつかみに行けばいいだろう。だが、社内においてただ「伝える」だけが目的である時に、ツールとしてパワポを選択するのは果たして最適なのだろうか?

 そんな疑問に対し、パワポと比べた時のマインドマップの魅力は2つあると思っている(というか、これらはパワポを使っていてしんどいと思う二大巨頭である)。
1つ目は、デザインを気にする必要がないことだ。パワポはもちろんテンプレがあるが、基本的には白紙である。白紙であるが故にいらない視覚情報まで詰め込んでしまいがちである。そんな中で見栄えやデザイン性を追求し出したら、時間がいくらあっても足りない。実際自分も振り返ってみると、そこにかける時間が非常に多かったという反省がある。
2つ目は、ストーリーを気にする必要がないことだ。スライドによるプレゼンはいわば紙芝居であるから、前後のつながりを意識しないと聞き手はあっという間に置いていかれる可能性がある。しかしマインドマップならばその心配は少ない。マップのツリーの階層が、そのまま各ワードの因果関係になっているからだ。しかもマップの全体像は常に見えているから、概要の理解も早い。そしていらない情報は折りたたんでおけばいい。
もちろんマインドマップにもデメリットはあると思う。しかし前述の2つの魅力があるだけで、可能な限りのパワポ案件をマインドマップに置き換えてしまう価値は十分にある。パワポにかけていた工数の削減と、聞き手の理解度の向上が同時に達成されると思うのだ(ただし、それでも何故かパワポの方が作成が早い異端児はパワポのままでよい)。だが使い慣れないマインドマップをいきなりビジネスに持ち込むのはハードルが高いだろう。そんな時、普段から馴れ親しんでいる読書という分野でトレーニングをしてみるのは、かなり有効な手段だと思うのである。

終わりに

 マインドマップというツールの存在自体は社員研修等で見知っていたのだが、それを提唱したのも本書の著者トニー・ブザン氏であることを初めて知った...。人によって使い慣れているツールは異なるかも知れないが、ただ広く知られていないだけでとても優秀なツールはたくさん存在している。手始めに、このマインドマップの素晴らしさを自分の職場から徐々に浸透させていくか...


それでは。