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雑食なエンジニアの本棚

【蔵書No. 29】成功するために何を考えるべきか | 月の商人

 日々暮らしていて、自分の現在の状態が「上手くいっている」「成功している」と見極めるのはなかなか難しそうだ。むしろ生きていれば「上手く行っているかどうか分からない」という時間が人生の大半を占めているようにも思える。だがどんな時でも、世の中で大成した人の考え方や生き方、ありがたい言葉を常に吸収したいものだ。(フィクションではあるが)本書だってそのひとつ。本書を先に読んでしまって「星の商人」という第一部があることを知って少し後悔したが、本書単体でも十分読み応えがあった。本書はかつて自身が社会に飛び出す時に持っていた初心を思い出させてくれる良きマインドセット役として、大いに効果を発揮してくれることと思う。

読んだ本

・タイトル:月の商人
・著者:犬飼ターボ

感想云々

 本書は、とにかく内容の密度が濃い。本書は長さにして約200ページくらいの分量しかない。書籍の中では短い方だと思うが、本書は名言の宝庫なのだ。以前ハマって読んでいた森博嗣氏のミステリーシリーズくらい名言が散りばめられている。本書はざっくり、かつて奴隷だった主人公ミーナがひょんなことから商人として活動する家に引き取られ、そこで商売のいろはを学んだ後に経済的な自立を目指すというサクセスストーリーである。その中で商人である賢者様から手ほどきを受けるのだが、賢者様の教えひとつひとつが、今後のためにメモしていつでも振り返られるよう残しておきたいほどの金言なのだ。少し話題になった「チーズはどこへ消えた?」という作品(いや、まだ話題沸騰中なのかも知れないが)を読んだ時と同じくらいの満足感があった。本書はどちらかというと、起業家を目指す人向けの本として書かれている。だが、本書に登場する内容は企業に勤めているビジネスマンにだって通用するだろう。
 本書は個人が成功するための考え方を分かりやすい言葉で伝えてくれている。そして+αで「ビジネスは人脈ゲー」ということも教えてくれる。主人公ミーナは奴隷として元の奉公先から逃れ、行くあてもなく彷徨っているところを「たまたま」賢者様の家に拾われた。この賢者様を仕事上の上司としてみなすならば、とてつもなく出来すぎた上司なのである。主人公に物事を教える時に、答えが分かっていても敢えて教えずに自身の頭で(あくまで解決できるレベルで)考えさせる。また、どんな些細なことでも主人公が前向きな事を成せば褒めて鼓舞する。そして主人公が誤った道を選びそうになれば、怒るでもなくそっとアドバイスをして諭してあげる(その上であくまで主人公に選択をさせる)。フィクションと分かっていながら「ビジネス上でこんな完璧な人材が果たしてどれくらいいるのだろうか...」とツッコんでしまったほどだ。そして同じく賢者様に教えを請う立場として登場する2人の先輩(商人)も素晴らしい。何も知識を持たない主人公を蔑むでもなく、自身の知識を惜しみなく共有して、上手く行けば賢者様と同じように主人公を肯定し、モチベーションを上げてやるのだ。こうして見ると、主人公はなかなかチートな環境にいた。ゼロから知識をつけていく主人公にとって、これほど活動しやすい場はなかっただろう。主人公が自身の頭で考えて行動するような部分もあるにはあったが、この環境以外で果たして大成出来ただろうか?現在では「親ガチャ」「上司ガチャ」なんて言葉があるくらいだが、「成功のためには人脈・そしてそれを引き当てるある種の運が必要なんだな」と、物語を追っていてそう感じてしまったのである。
 ところで本書のサブタイトルは「女性が『幸せと成功』を手に入れるための秘宝」というものである。だが途中まで読むと、「別に女性だけでなく男性にも同じことが言えるのでは?」と思うだろう(自分もそうだった)。だが、個人的に強烈だったのは本書で登場する「女性が陥りがちな罠」という内容である。本書では、女性が商売(またはビジネス)をする上で無意識に陥ってしまう罠が、以下のように述べられている。

女が商売をするときに陥りがちな六つの罠
一つ目は、お金を受け取ることに抵抗を感じやすい。
二つ目は、投資の意識が低いこと。
三つ目は、鏡に向かう時間を減らしてしまう。
四つ目は、男との関係。戦ってしまう。
五つ目は、仕組みで考えるのが苦手。
六つ目は、やらなくていい理由がいくつもある

「月の商人」より | 犬飼ターボ

これは商人に限らず、他のビジネスにおいても同じことが言えるだろう。そして、これを見ていると女性側からすれば「不公平だ」「男はずるい」ということを叫びたくなるかもしれない。本書でも語られているが、三つ目なんて特にそうだ。男性は特におしゃれではなくても、頑張っていれば実力が認められる場合があるだろう(職種にもよりそうだが)。だが、女性は外見や立ち振る舞いの美しさで判断されてしまう場合だってあるのだ。昨今ではダイバーシティの思想が強まってきており、働き方を考える上で「男女平等」というワードがどうしても一言目にくる。だがその平等を意識すればするほど、これらの罠は浮き彫りになってきてしまうと思うのだ。本書では「女性が陥る」と表現されているが、むしろ「ビジネスをする上で男女間でもめる6つの原因」と捉えた方が良さそうだ。女性だけでなく男性側もこの内容を知り、お互いの違いを理解していないと、ダイバーシティという世界は絵に書いた餅で終わってしまいそうだ。本書ではそういった「ビジネスで罠に陥らないように」と注意喚起をしつつ、一方で「女性には女性にしかない魅力があるんだよ」という後押しをしてくれるような内容も盛り込まれているのである。

終わりに

 哲学本やビジネス本を読むたびに思うことだが、個人で持つのではなく、組織として集団免疫的に持っておくべき知識やマインドというのが多々ある。日々読書をして勝手にインプットできる人ならいいが、ある程度の規模を持つ組織に対してこのような教養を満遍なく浸透させるにはどうしたらいいのだろうか。良い本を見つけるたびに、そんな思想が強まってしまうのである。


それでは。