これは少々偏見だが、「思考停止という病」というタイトルを書店で見かけて興味をひいたり読んでみたくなる人は、現状に満足していなかったり、潜在的にそのことで悩んでしまっている人ではないかと思う。
(自分もその節があったので、手に取ってしまった)
そして思考停止を強く実感するのは、主にビジネス絡みではないだろうか。
「自分の頭で考えろ!」なんて言葉は遥か昔から職場で飛び交っている言葉だろうし、斜陽産業なんて呼ばれる業界は、業界全体が思考停止に陥っていると言っても過言ではない。
苫米地英人氏の「思考停止という病」は、そういった思考停止というそもそもの問題提起、そしてそれに悩む人達に向けて脱却方法を紹介している。
(Kindle Unlimitedで無料で読むことができた)
思考停止はどういう状態か?
思考を停めるということは、進化を止めるということに等しい。
そもそも「生命現象」の定義を考えた時、本書に書かれているのは
「一定の情報空間での抽象度をダイナミックに変化させる」
ということ。
大分噛み砕いて言ってしまえば、ランダムな突然変異を繰り返しながら生命としての階段を上がっていくことで、進化してきたということである。
人間が思考ができるようになったり、その思考がより高度になったのも、その進化の過程である。
その思考を停めてしまうと、ランダム性も動的であることも失われてしまい、生命としてのステップアップが困難になってしまう。
それは誇張でもなんでもなく、自身で自由を奪うことであり、進化の可能性を放棄しているということなのだ。
どうして日本人の思考は停止してしまうのか?
思考が停止する所以は、主に下記の3つであると考えられている。
- 前例主義
- 知識不足(著者は「バカだから」と言い放っていたが、、、)
- ゴールがない
この中では前例主義も、知識不足も、恐らくビジネスを経験した人ならば自ずと肌で感じていることだろう。
注目してみるべきは、「3.ゴールがない」こと。
ゴールというのは、その人が本気で成し遂げたいことだ。
そのゴールがない状態では、人は思考停止してしまう。
作中にもあるが、思考とは生命現象の一部である。
人間の場合は、進化とは脳の進化であり、思考はその進化の過程でできた物である。
その進化の中には、「意思の力」も重要な要素として含まれている。
(筆者の重要な主張だ)
他の生物における「陸に上がりたい」や「高い位置の食べ物を食べたい」などもそうである。
思考も同様で、強烈な情報(ゴール)を置いてあげることで、現状から脱け出すパワーが生まれるのである。
ちなみに悲報であるが、ビジネスマンにはゴールがない。
(中々手厳しいことが書かれているものだ)
中には「自分が勤めている会社の社長になる」という人もいるが、それは残念ながらゴールではない。
ゴール設定の前提は、「現状の外側」に置くことである。
現在の延長上ではなくて、現状を変えなければ達成できない。
ゴールとは、そういうものでなければいけないのだ。
どうしたら思考停止を回避できる?
能動的に思考するための方法は本編でいくつか紹介されている。
その中で少しかいつまんで以下に挙げてみたい。
- 常識を疑うこと
「当たり前」「常識」等のノーマルを疑うところから思考はスタートする。
この世に不変な真理などない。
そして、「ノーマル」ほど最悪で、厄介なものはない。
ノーマルというのは、他人からの押しつけでできた物である。
他人はその人に周囲と同質であることを無意識に求める。
ゾーンを崩されると不快になるからだ。
他人は、その人が常識の中にいてくれると安心するのだ。
「成功していない」「お金がない」「変化しない」
これらは全て他人から植えつけられたコンフォートゾーンでしかない。 - 本を読むこと
知識を手に入れる最もコスパの良い方法は、読書である。
ただし、何も考えずに読んだのでは、知識が右から左に抜けていくだけだろう。
本編では読書のちょっとした工夫が紹介されている。
(「著者になりきる」「同一分野を同時に読む」といった内容だ。)
その中でも、読書をする上でのコツは、ランダムに本を選ぶことだ。
これは、同一分野を読み続けて知識に偏りが出ることを防ぐためである。
もし、同一分野をより吸収したいと思うならば、そもそもの母数を増やすことで、知識を分散させると良い。 - ゴールを8つ持つこと
「8つはかなり多いな...」と思う人もいるだろう。
しかし、別にゴールは1つだけである必要もないのだ。
「健康」「趣味」「生涯学習」「家庭」...等々、様々なジャンルから目標を立てるのが良い。
ここでのポイントは、お金と仕事を分けること。
(これが、目標を複数持つ必要性である。)
お金は、あくまでもその他のゴール達成のためのファイナンス活動の一部に過ぎない、と割り切ってしまうのが吉である。
感想云々
本書を読んで一番印象に残っているのは、作中の「ビジネスに自己実現を求めてはいけない」という一文である。
自分は元来、「仕事=お金を稼ぐ目的」とするのは悪だと思っていた。
お金を稼ぐ方法は今日ではいくらでもあるし、何より人生で多くの時間を割くかもしれないのが仕事である。
お金は、その長丁場を支えるモチベーションにはなり得ないと考えていた。
しかしやがて、多くの人が学生時代に思い描いていた「やりがい」というのは、持っていたのではなく、持たされていたことに気づく。
(自分も少々その節があった。)
働く以前とのギャップに直面したり、仕事で行き詰ることが続いてしまうと、その初志が災いしてしまい、「どうして働いているのだろう」と思い始めてしまったり、自己否定をしたくなったりしてしまう。
それは、そもそも存在していない(というか成立していない)ゴールに振り回されてしまっている可能性が高い。
もちろん、自分がやりたいこととビジネスが一致することはとても素晴らしいことだ。
だが、そのように見事にマッチする人は世の中でも、ほんの一握りだろう。
それで悩みを抱えてしまっているならば、その時点で今のビジネスは恐らく本当にやりたいことではない。
ビジネスをファイナンスと割り切ることは勇気がいるが、そう開き直ることで心が軽くなる人は、少なからず存在するのでは無いだろうか。
終わりに
思考停止は「罪」と断言する人がいるが、あながち間違いではないと思う。
裕福になって便利になった今の世の中でも、この病は恐るべきスピードで蔓延している。
思考を停めないこと。
それが悩める現状を打開する解決策であるし、最も厄介な大衆文化からの脱却の近道であるように思える。
それでは。