Tanti Anni Prima

雑食なエンジニアの本棚

【蔵書No. 41】粗利80%超えがバグってる件 | 実践 超高収益商品開発ガイド

 約5年間働き続けてきた技術畑を離れ、ご縁があって企画の領域に携わらせてもらうことになった。技術の仕事は確かに楽しい。自分の働きが世に対して直接的にインパクトを与えていることを実感できるし、何より実際の商品をある程度自分の手で思いのままに作ることが出来るため、思ったよりストレスがなくていい。しかしその一方で、業界の全体像が見渡せないストレスを徐々に感じるようになっていた。人脈もそこまで豊富ではないため思ったより業界の情報を取りに行けず、このまま粛々と開発を続けていると、自分はこのある種閉じられた環境で社会人を終えるのだろうかという不安も抱くようになった。そのため、今回の異動は良い転機だったのかも知れない。今まで技術の専門分野ばかり掘り下げてきて、突然マーケ寄りの仕事になった本年度。ノウハウ収集のために、まずは粗利80%超えという、ポケモンでいうところの600族のようなぶっ壊れ(?)性能を持つキーエンス出身者の著書にありついた次第である。

読んだ本

・タイトル:実践 超高収益商品開発ガイド
・著者:高杉康成

感想云々

 本書を読んでまずいいなと思ったのは、マーケティングの枠組みが比較的容易に理解出来ることだ。それはSTP分析や4P分析のような手法、マスカスタマイゼーションといった概念に至るまで様々だ。マーケティングの領域の人間は理解して然るべき内容だろうが、技術の人間だって専門領域の深堀りにかまけず、理解すべき内容なのだ(もちろん自分に対して言っている)。研修で自ら学びに行くならば別だが、OJTだと上記の内容をきっちりと教えてくれることはあまりない。というか新入社員が技術部に配属されてまずやることと言えば、開発中(または既存)の製品のごくごく一部のユニットや部品の改良、またはそれらの評価に留まることが多いだろう。それらももちろん極めて大事なことである。だが早い段階でマクロな視点を持つことは同じくらい重要であり、自身の手を動かして上記のフレームワークを実施することはとても有効に思える(自分もするべきだった)。自分の手掛ける製品の業界の立ち位置や製品のターゲットを明確にすることは、「よく分からないがとりあえず言われたことをやる」という受け身の脱却にもつながるし、開発のモチベーションを上げることにも貢献するだろう。何より数年勤めて考えが凝り固まった人間よりもフラットな目線を有する人間が実施すると、周りが気づけぬような違和感の発見にだってつながるかも知れないのだ。会社でこういったマーケティングのノウハウをパッと学べる機会がないという人は、本書を読んで、その中にあるフレームワークの中身を自社製品に置き換えてみるといいかも知れない。

 そして本書を読んでいると、製品開発の際は差別化戦略だけではなく、付加価値戦略とのバランスが非常に大事だということを強く認識する。つまり「他とは違うんです」と言うだけではなくて、「あなたの役に立ちます」もないとダメだということだ。「何を当たり前のことを!」と思うかも知れない。だが少なくとも自分が技術畑にいた時は、どうしても他社との差別化のみに考えが偏りがちだった。そのため、本書における「単に仕様で優位に立とうとするんじゃなくて、あくまで顧客ニーズに徹しろ」というメッセージは非常に耳が痛い内容だった。とある展示会に行けば、ぱっと見で違いが全然分からないような、それはもう似通った製品をたくさん目の当たりにする。さらに各企業のブースでは「我が社は最先端の機器を技術力でここまで尖らせました!」と言わんばかりにラインナップを並べている。何ならブースを訪れて社名がバレた瞬間「おたくの〇〇(商品名)よりちょっと性能がいいですよ」とダイレクトに剛速球を投げてくるメーカーもある。そういった展示会に限らず、開発をしていて日々舞い込んでくるのは顧客のニーズではなく、競合他社の最新ばかりなのだ。そんな競合の情報過多の状態で、顧客ニーズを徹底して念頭に置きながら開発にあたる難しさを再認識するのである。本書の「ニーズ第一」のメッセージは、競合に圧倒的な差をつけている企業だからこその、キーエンスのある種の王者の余裕のようなものが感じて取れた。著者はもうキーエンスの人間ではないのだが、キーエンス恐るべし。

終わりに

 キーエンスが凄い会社というのは学生の頃から知っていたが、いざ社会人になってメーカーに勤めていると、粗利80%超えというのが如何にぶっ飛んでいるのかよりはっきりと分かる。こういう日本を代表するような超優良企業を学んで、自分の所属する企業に還元できたら最高である。


それでは。