「ジョン・ウィリアムズ」
偏見だが日本ではこの名前を聞いてピンと来ない人は意外といるんじゃないだろうか。だが、彼の功績を知らない人はいないはずだ。ジョン・ウィリアムズはアメリカの作曲家であるが、「スターウォーズ」「ハリー・ポッター」「ジュラシック・パーク」「インディ・ジョーンズ」etc...これらの有名な映画の楽曲は彼自身が手掛けたものである。(ここまで来て「知らない」とは言わせん)
そんな映画音楽の神様の楽曲を携えて、この度ボストン・ポップス・オーケストラが20年ぶりに来日することになった。生まれた時からジョン・ウィリアムズの音楽が常に周りにあって、もはやメロディがDNAに刻まれているレベルの自分にとって、本公演がワクワクしないはずがなかった。
プログラム
本公演のセットリストは以下の通り
- スーパーマン・マーチ
(映画「スーパーマン」より) - 『ジョーズ』のテーマ
(映画「ジョーズ」より) - 『タワーリング・インフェルノ』メイン・タイトル
(映画「タワーリング・インフェルノ」より) - 未知との遭遇
(映画「未知との遭遇」より) - Suite(映画「遥かなる大地へ」より)
- 会長さんのワルツ(映画「SAYURI」より)
- ハリーの不思議な世界
(映画「ハリー・ポッターと賢者の石」より) - オリンピックファンファーレとテーマ
- 「シンドラーのリスト」のテーマ
(映画「シンドラーのリスト」より) - Les enfants de la Terre~地球のこどもたち~
(「THE世界遺産」より) - レイダーズ・マーチ
(映画「インディ・ジョーンズ」より) - 悪魔のダンス
(映画「イーストウィックの魔女たち」より) - 帝国のマーチ
(映画「スターウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」より) - ヨーダのテーマ
(映画「スターウォーズ エピソード5/帝国の逆襲」より) - レイのテーマ
(映画「スターウォーズ エピソード7/フォースの覚醒」より) - スターウォーズ メイン・タイトル
(映画「スターウォーズ」より)
セットリストを見ただけで既に映画音楽界の全国大会、いや世界選手権が開催されているといっても過言ではないのだが、どれが優勝しても結局トロフィーを持ち帰るのはこれらのほぼ全ての楽曲を手掛けたジョン・ウィリアムズである。一体どれほどの名作を世に送り出せば気が済むのだろうか(褒め言葉)。コンサートはスーパーマンの勇ましいメロディとともにスタートするが、開幕ジョン・ウィリアムズが担当してきた数々の映画の名シーンがメドレーよろしくスクリーンに映し出される。ハリーがバックビークに乗って水上を走るシーンや、ホーム・アローンで泥棒2人組がケビンの仕掛けた罠にまんまとひっかかるシーンなど様々である。もうこの時点で懐かしさが致死量を超えており既に目頭が熱くなった。不思議なもので、曲を聞いただけで当時その映画を見ていた時の情景を一瞬で思い出すことが出来るのだ。音楽は思い出のトリガーとして、とてつもない威力を発揮するのだとつくづく思わされる。プログラムの合間にはジョン・ウィリアムズ本人のインタビューが都度入っており、本人がどのような心境で制作に挑んだのか、その舞台裏を知ることができる。なんと贅沢なプログラムであることか!
ハリー・ポッター
ジョン・ウィリアムズの楽曲は数々の作品を断片的に見ていたのでもちろん知ってはいたが、よくよく考えて見ると映像でシリーズを全て追ったことがあるのはハリー・ポッターが唯一かも知れない。原作のストーリーももちろん素晴らしいのだが、ジョン・ウィリアムズの音楽なしではここまで人気が爆発しなかったのではないだろうか。ハリーがまだ幼いときはその無邪気さを、ストーリーが進むとその怪しさと暗さを後押しするように音楽が見事にマッチしており、壮大なダークファンタジーに仕上がっていた。ジョン・ウィリアムズとスティーブン・スピルバーグは日本でいう久石譲と宮崎駿レベルの盟友であるのだが、当時スティーブン・スピルバーグと師弟関係にあったのがハリー・ポッターを手掛けた監督であるクリス・コロンバスだ。我々はこの奇跡的な出会いに感謝しなければならない。自分の記憶が正しければジョン・ウィリアムズはマグル出身であるはずなのだが、ハリー・ポッターシリーズで最強の魔法使いはニワトコの杖を手にしたハリーでも、日本で絶大人気のフォイでも、名前を言ってはいけない某ヴォっさんでもなく音楽を自在に操るジョン・ウィリアムズであるということを再認識させられた次第である。
SAYURI
SAYURIは2005年に公開化されたアメリカ映画であるが、アーサー・ゴールデンによる小説「さゆり」が元になっている。実は自分が初めてこの曲を聞いたのはフィギュアスケートである。数々のオーケストラ曲が起用される中、当時既に世界で活躍されていた中野友加里選手が演技にSAYURIの楽曲を使用しており、不思議と強烈に頭に残っていた。楽曲が日本に馴染みすぎて当時全然気にしていなかったのであるが、振り返ってみるとジョン・ウィリアムズが手掛けた楽曲だと後になって気づいた。SAYURIの楽曲は曲中で和楽器を積極的に採用していることもあり、聞くと自ずと日本人の血がさわぐように仕掛けが施されている。「THE 西洋から見た東洋」といったイメージが極まったような曲に仕上がっているのだ。しかし海外の著名なアーティストの和の文化へのリスペクトを感じ取れるとなぜこうも嬉しいのだろうか(特に自分がなにをしたわけでもないのに...)。ゴッホが当時浮世絵と出会って大変な興味を持ち、自分の絵にも反映させていたというエピソードを知った時の感覚に近い。日本人であるのに、ジョン・ウィリアムズの楽曲を聞いて日本の魅力を改めて知ることになるという、文化の再輸入のようなことが起こっているのである。
スター・ウォーズ
自分はスター・ウォーズに関して、エピソード1(ファントム・メナス)を見た後にいきなりエピソード9(スカイウォーカーの夜明け)を見に行ってしまった不届き者であるが、正直スター・ウォーズを予習してこなかったことを非常に悔いた。前述のとおり他の映画でも数々の名曲を生みだしているジョン・ウィリアムズであるが、彼にとっての最高傑作はスター・ウォーズだったのだなと楽曲を聞いて確信する。恐らくメインテーマの次に有名であろう帝国のマーチ(ダースベイダーのテーマ)は、正直テレビの中で聞いてもなんてことのない、ただのかっこいい曲である。ところが劇場で聞く帝国のマーチはとてつもない迫力である。ドラムの振動が直接客席に届くレベルの威圧感であり、このプログラムの瞬間だけ会場が4DXになったんじゃないかという錯覚を覚えた。まだフィナーレでもないのに、お客さんが思わずブラボーを叫んでしまったほどだ。
その直後に演奏されたのはヨーダのテーマだ。このヨーダのテーマが実に良かった。ヨーダはその風貌に知性を持たせるためにアインシュタインと同じ目を持たせるなど、とにかくキャラデザインが凝った物語のシンボル的な人物だ。そんな厳かな見た目と作中でのポジションの高さから、普通ならば重々しいBGMを想像してしまいそうである。だが、ヨーダのテーマはなんと可愛らしい曲であることか!見た目とは裏腹に明るくゆっくりとした楽曲のギャップが、むしろヨーダ自身の懐の深さを表現しているように思えた。
ラストを飾ったのは前人類が知っているスター・ウォーズのメインテーマである。今まで何百回も聞いてきたテーマのはずなのに、勇ましいトランペットのメロディは、聞くたび我々に活力を何回でも与えてくれる。平日朝に気分が乗らない時、いつも佐藤直紀氏の「龍馬伝」を流すことで自分を鼓舞してきたのだが、「明日からスター・ウォーズに変えよう」と決意したほどである。
終わりに
ジョン・ウィリアムズと同じ時代を生きて、その音楽を肌で感じられるというのはこの上ない喜びである。そしてその音楽を今回ボストン・ポップス・オーケストラで聞けたのは奇跡に近い。これは日本でなんて寂しいこと言わずに、いっそのこと本場に行って彼が生きているうちにその魅力を十分に愉しみ尽くすしかない。今からその瞬間が楽しみである。
それでは。